M&A手法である、事業譲渡と会社分割の違いについて
こんにちは、M&A仲介・アドバイザリー会社のクラリスキャピタルです。
事業譲渡と会社分割は事業を他社に移転させるという点で似ていますが、下記のような違い・特徴があります。
事業譲渡…モノの売買の商取引的な位置づけで、契約・債権債務等は個別移転が必要。
会社分割…会社法上の組織再編行為にあたり、手続等の規制がある。包括承継。
事業譲渡と会社分割で法的効果や手続、許認可、税務等の取扱いが下記の表のように異なるため、どちらのスキームを選ぶかは個別の事情を勘案し、トータルに検討することになります。
事業譲渡 | 会社分割 | |
---|---|---|
意味 | 一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡するもの。会社法上は組織再編行為と区別されている。 | 事業に関して有する権利義務を分割し、包括承継させる行為(会社法第2条29号・30号)。組織再編行為として規制(会社法第5編)されている。 |
手続き | 株主総会決議等 (詳細はこちらをご覧ください) | 各種組織再編の手続き(事前開示・債権者保護手続、株式買取請求手続・事後開示)などが必要。 |
契約の移転 | 個別の移転手続きが必要 | 包括承継。移転手続き不要。 (ただし、取引先との契約にチェンジオブコントロール条項等がある場合、経営主体が変わったことを理由に相手方から契約を切られるリスクあり←会社分割契約記載内容等で要手当て) |
権利義務(債権債務)の移転 | 個別の移転手続きが必要 | 包括承継。移転手続き不要。 |
従業員の承継 | 個別の移転手続きが必要 | 承継される。 ただし、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)に則る必要あり。 |
許認可 | 引き継げない。 譲受会社は必要なら取得を要する。 | 各業法による。 (各当局等へ要確認) |
譲受会社が簿外・偶発債務を引き継ぐリスク | 基本的になし | (会社分割契約の記載などにより) リスク排除可能 |
消費税 | 課税される | 課税されない |
不動産取得税 | 課税される | 課税されない (一定の要件を満たした場合) |
登録免許税 | 課税される (会社分割より税率高い) | 課税される |
「事業譲渡は個別移転が必要で手間がかかるから、会社分割で」と一般論としていわれることもありますが、会社分割の手続きが簡易かといわれるとそうでもなく、会社分割は組織再編行為で手続等が規制されており、一定の期間を要したり、手続実行の手間もかかるため、中小規模の事業を切り離す場合には会社分割よりも事業譲渡で行うことが多いといえます。
ただし、取引先等との契約件数などが膨大な場合には個別に移転手続きを行うことは現実的に難しいので、事業譲渡ではなく、会社分割を検討することになります。
ちなみに、事業譲渡の場合、契約が継続されることが事業の根幹をなし、重要であることが多いので、個別の移転手続きを行いますが、債権債務のそれぞれの個別移転煩雑なので、基本的には行いません。そのため、バリュエーションは「有形固定資産の時価+のれん(営業権)」とすることがM&Aの現場では多いといえます(詳しくはこちらをご覧ください)。
企業再生のために会社分割する場合、会社分割の濫用が問題(分割会社に残される債権者が債権者保護手続の対象とならないことから、よい事業を会社分割で切り出し、悪い事業を会社に残し、膨大な債務を会社に残して清算するなど)になっていますので、法律の専門家に相談するのがよいでしょう。