M&Aの手法や実務、手順、プロセスについてクラリスがご説明いたします。

M&Aの手法や実務、手順、プロセスについて

M&Aの手法としては、(ざっくりいえば)モノの売買という概念寄りの株式譲渡・事業譲渡と、会社法上の組織再編行為があります。まずは各手法の概要をみていきましょう。

株式譲渡とは

M&Aに際して、会社の売却側が買収側へと、株式を譲渡することを指します。M&Aにおいては最低限でも、株主総会普通決議の決議要件である、議決権の過半数以上の株式を譲渡することが通常です。これにより、会社の経営権が売却側から買収側へと移転されます。

株式譲渡は手続が容易であり、中小企業のM&Aにおいて頻繁に利用されます。

事業譲渡とは

事業譲渡とは、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡するものです。

そのため、会社分割では個々の権利義務について個別の移転行為を必要としませんが、事業譲渡の場合、ここの資産については個別の移転手続が必要となります。

組織再編行為とは

組織再編行為とは、組織変更、合併、会社分割、株式交換・株式移転を指します。

①組織変更
会社法2条26号規定される通り、株式会社が合名会社・合資会社・合同会社となる、もしくは合名会社・合資会社・合同会社が株式会社となることを意味します。

②合併
合併は複数の会社が契約により、1つの法人になることを意味します。

吸収合併と、新設合併の2つに対分されますが、吸収合併は会社法2条27号に規定される通り、会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいいます。

一方の新設合併は28号に、2以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものと規定されています。

③会社分割
会社分割は1つの会社を2以上の会社に分割することを意味します。

吸収分割と新設分割の2つに対分されますが、吸収分割は会社法2条29号に規定される通り、株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させるものをいいます。

一方の新設分割は30号に、1又は2以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させるものと規定されています。

会社分割が可能なのは、株式会社と合同会社のみです。合名会社と合資会社は無限責任社員を必要とするため、その責任の承継に関して複雑な問題が生じます。

よって会社法ではこれら会社の分割を認めておりません。

④株式交換・株式移転
株式交換とは会社法2条31号に規定される通り、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させることをいいます。

一方の株式移転は32号に、1又は2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させるもの、と規定されています。

実務におけるM&A手法の選択について

M&Aの手法としては、株式譲渡・事業譲渡と会社法上の組織再編行為である合併、株式交換・株式移転、会社分割があることは確認しました。

しかし、再生案件を除いた中小規模のM&Aにおいて、組織再編行為を行うことはほとんどなく、通常は株式譲渡、事業譲渡の手法でM&Aが行われます。

なぜなら、株式譲渡・事業譲渡と比べて、組織再編行為には下記のデメリット・リスクがあるためです。

①会社法上、一定の手続が要求され、手間と時間がかかる。
組織再編行為は既存株主や債権者に大きな影響を及ぼすため、会社法上、一定の手続(債権者保護手続や事前・事後開示や反対株主の株主買取請求権など)が要求されています。

債権者保護手続においては必要な債権者に対して、一定の事項の各別の催告や公告が要求され、最低1ヶ月以上の期間を要します。

②合併はリスクが大きい
組織再編行為の一手法である合併は、乱暴に言えば、2つの法人を1つの法人にまとめてしまうものです。

M&A後の企業文化の衝突や、社内の派閥争い、どちらかの会社の瑕疵が発見された場合など、合併は1つの法人になった以上、合併の解消は困難があるため、ダメージが大きくなります。

そのため、最終的には合併を見据えていたとしても、通常は段階を踏んで行います。

例えば、当初は株式譲渡などで完全子会社化し、法人を分けておき、その後、双方の会社の理解を深めて、合併を行います。

株式譲渡と事業譲渡の比較

それでは、株式譲渡と事業譲渡について、それぞれ必要とされる手続の観点から比較してみます。

******** 株式譲渡の手続 ********

原則
株式は自由の譲渡ができるため、会社の売却側が買収側へと、株式を譲渡することで完結します。

例外(譲渡制限株式)
上場をしない限り、通常の会社の株式は定款により、譲渡制限株式となっています。

譲渡に制限をかけるのは、好ましくない者が株式取得によって会社に入るのを防ぐ目的等があるからです。

譲渡制限株式の譲渡手続として、まず株主・取得者から会社に対して承認請求を行います。

その後、意思決定機関において、譲渡制限株式の譲渡についての承認、承認請求者への通知を行います。

会社が承認しない時には、会社が株式を買い取るか、指定売買人を指定します。

(原則)
取締役会非設置会社:株主総会普通決議
取締役会設置会社:取締役会決議

(例外)
定款で別段の定めを置くことができます

******** 事業譲渡の手続 ********

譲渡する側の手続
事業の全部の譲渡、事業の重要な一部の譲渡の時

(原則)株主総会特別決議
※反対株主には株式買取請求権が認められます。ただし、事業全部譲渡の決議と同時に解散決議をした場合には認められません。

(例外)株主総会決議は不要
①一部譲渡の時に譲渡する資産の帳簿価格が当該会社の総資産の20%を超えない場合
(株式買取請求権は認められません)
②譲受会社が特別支配会社の場合(反対株主には株式買取請求権が認められます)

※ただし、取締役会設置会社では、当該行為が「重要な財産の処分」に当たる場合には、取締役会決議が必要になります。

譲受する側の手続
他の会社の事業の全部を譲り受ける時

(原則)株主総会特別決議

(例外)株主総会決議は不要
①譲受対価が譲受会社の総資産の20%を超えない場合
(ただし、株主の反対が一定数に達した場合には、株主総会の特別決議が必要です)
②譲渡会社が特別支配会社の場合

※いずれの場合も反対株主には株式買取請求権が認められます。

株式譲渡と事業譲渡のメリット・デメリット

このように、株式譲渡と事業譲渡では必要とされる手続に大きな違いがあります。それでは最後に、株式譲渡と事業譲渡を比較した際の、それぞれのメリットとデメリットをみていきましょう。

株式譲渡のメリット・デメリット

メリット:手続が事業譲渡より簡素
デメリット:簿外資産・簿外負債を引継ぐリスクがある

事業譲渡のメリット・デメリット

メリット:簿外資産・簿外負債を引継ぐリスクがない
デメリット:事業譲渡の場合、ここの資産については個別の移転手続が必要となるため、移転する契約の数が多い時など、手続が煩雑化する。許認可が必要なビジネスの場合、譲受会社で再取得する必要があることが多い

株式譲渡・事業譲渡はそれぞれ一長一短であり、M&A案件に応じて使い分ける必要があります。

また、許認可関係を引き継ぐためには組織再編行為の方が適している場合もあり、どのスキームが適しているかは、状況に応じて、総合的な検討をする必要があります。